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勝利のチケット
あっけなく現れたネオフラミンゴのスタッフは、これまたあっけなく整理券を配り終えた。
あまりのあっけなさにイマイチ実感が湧かなかったのだけれども、とにかく今、自分の手の中には誇らしげに「1」と書かれたカードが握られているのだった。
近くのカフェベローチェで勝利のコーヒーを飲む。
時刻は10時半。
実に15時間半ぶりの水分の摂取がコーヒーって大丈夫なのか? ・・・・水も飲んどこ
暖房の効いた暖かい店内で、暖かいコーヒーが五臓六腑に染み渡る。
もう何も恐れることはない。
尿意を感じたら誰に遠慮することなくトイレに行けば良いのだから。
そしてついに天使ちゃんに会えるという喜びと、もう少しでこの戦いが終わってしまうのかと言うちょっとだけ寂しい気持ち。
久しぶりのカプセルホテルの宿泊も、早朝からのみんな一緒の我慢大会も、なんだかんだで結構楽しかったのだ。
コーヒーの乗ったトレイを返却台に戻し、カフェベローチェを後にする。
手にはしっかりと「1」の番号札。
いよいよ天使ちゃんとの初対面の時である。
悪夢のはじまり
ネオフラミンゴに戻って待合室に通されると、すでに大勢の同志たちが座っていた。
今まで見たピンサロのなかでも広さはトップクラスの待合室に20名はいるんじゃないかという雰囲気で、彼らのとんでもない威圧感に一瞬気圧されそうになるがなんの心配もいらない。
なにしろ自分は並び一番なのだから!
余裕の表情でゆっくりと歩みを進め、奥の方の空いたスペースに腰を下ろす。
頭の中では受付で言うべきセリフ
"天使ちゃんを45分コースで、あっ それとVIPシートお願いします。"
の繰り返し練習に余念がない。
受付では舐められないよう、セリフをどもったり噛んだりしては行けないのだ。
突然待合室にスタッフが入ってきて我々に声を掛ける。
「今日天使ちゃんご指名のお客様いらっしゃいます?」
いますも何も、質問の意図がわからずに周りの様子を伺いながら手を上げる数名の同志と自分。
それを確認して何も言わずに出ていくスタッフ。
なんだかよく分からないが・・・まぁいいだろう。
しばらくして再び待合室に入ってきたスタッフが口を開いた
「番号札の・・・」
きたっ!ついにこの時がやってきた!
昨日から今までの出来事が走馬灯のように一瞬で頭の中を駆け巡る。
一生懸命に辛い寒さに耐えたのも、この瞬間のためなのだ。
番号札を握る手に自然と力が入り、返事をしようとしたその瞬間である。
「番号札の2番でお待ちの方どうぞー」
「はいっ・・・・は、え??」
「2番?」
ちょっと待て、なぜ2番なんだ? まず1番を呼ぶべきだろう? あれ? もしかしてオレ1番を聞き逃したりした?
いや、そんなことはない!!
頭の中がプチパニック状態になりながら周囲を観察するが、いきなり2番が呼ばれた事に不審な表情を見せる同士が全くいない。気がする
しかも2番の番号札を持っているであろう折りたたみ椅子の彼が、「私がトップバッターです。」と言わんばかりのとんでもなくナチュラルな雰囲気で、呼ばれるままに待合室を出ていくではないか。
完全に想定外の事態にフリーズ状態の自分。
本当はここで
「いやいや自分1番なんですけど〜!!」
と出ていけば良かったのかもしれない。
がっ!
”きっと何かの確認のために2番の人を読んだだけで、別に受付のために呼んだ訳じゃないんだよ”
と言う天使のささやきによって大人しく待つ事にしてしまったお人好しけんたろうである。
「番号札の・・・」
再びスタッフが1人で待合室に入ってくる。
やれやれ、ようやくオレの出番が回って来たのか
「番号札の3番でお待ちの方どうぞー」
「はいっ・・・・は、え??」
「3番?」
「いやいやちょっと待てぇ〜い!!!」
「ばかなの?(笑)」
完全にこれオレが置いてかれてるパターンじゃないか。
一瞬だけ、このまま放置して最後の最後で恨めしそうに「おれ、1番だったんですけど。」ってやるのも面白そうかと思ったけど、そんなことやってる場合じゃない。
ここは勇気を振り絞って自分の存在を主張しよう!!
「すっ、すいません。1番なんですけど!」
「!? 少々お待ちください!」
いやいや「!?」じゃないわ!
そして再び入ってくるスタッフ
「番号札の・・・」
頼むよ?今度こそ頼むよ?
「番号札の1番でお待ちの方どうぞー」
いやいや、”どうぞー” じゃないわっ!!
今までの流れで完全に嫌な予感に包まれているが、ようやく木村さんを指名することができる。
受付のエリアに通されると正面に出勤している女の子の写真が並び、右側を見ると映画館のチケット売り場を連想させるようなブースがあった。
このブースの中にいるスタッフが女の子のつけ回しのコントロールをしているのだろう。
それとは別に受付エリアで自分のそばにもう1人のスタッフが立っており、彼がブースのスタッフとのやりとりを仲立ちしているようだった。
なぜ、1番を飛ばして2番を呼んだのか?と言う自分の問いに対して、
「ちょっとした手違いで・・・」
としか言わないスタッフ。
不信感が募るが・・・
とにかくここは木村さんである。
え!!?いや、だから
何言ってんの?
byけんたろう
まるで ”いまさら木村さんなんて、おまえ何言っちゃってんの?” 的な雰囲気を醸し出しながら、木村さんの受付は終了したと当たり前のように宣言するブース内のスタッフ。
そしてそれを聞いて「終わっちゃってます!!」とドヤ顔で被せてくる受付エリアのスタッフ。
いやいや聞こえとるわ!
あいかわらず全く理解が追いついていかない現在状況の説明を求める。
すると、「なんかあのぉ、LINEでぇ〜」と得意げに続けようとする受付エリアのスタッフを制するように、店長らしき人物が割って入ってきた。
店長からの大切なお知らせ
12月1日から通われてたお客様の中に、女の子からの招待券をお配りさせて頂いてまして・・・・
「・・・・って感じです。」by受付エリアのスタッフ
店長らしき人物の説明後に「・・・・って感じです。」を付ける事により、全ての手柄を持っていこうとする受付エリアのスタッフ。
もうこの時点で自分の頭の中は真っ白。
「・・・・って感じです。」って言われても、一体どんな感じだよ(涙
今日を逃せば木村さんには会えないと思っていた。
その今日がこんな結果に終わってしまった。
とにかく、もう自分は木村さんに会えないのだ。
朝の四時半に並び1番を確保した瞬間から、 ”木村さんに会えないかもしれない” と言う可能性は完全に自分の中で消えていた。
”絶対に会える” と少しの疑いもなく、むしろ ”会えて当然” だと思っていたのに、こんなにも簡単にそれを否定されたことがショックでならなかった。
そしてこれは完全に自分の情報戦での敗北だと思っていたのだが、のちに違っていた事が判明する。
この時は ”招待券” と言うものが他の客に周知の事実だと思っていた。
これを知らなかったのは自分だけだと。
それなのに並び1番を取れば絶対に木村さんと遊べるんだ! なんて無邪気にはしゃいでいた自分が恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
突然激しいめまいと吐き気に襲われる。
「他にもいい子いっぱいいますよ!!」
受付エリアのスタッフが自分にそう語りかける。
必死に写真のパネルに目をやるが、全く女の子たちが見えなかった。
木村さん以外は全く考えていなかったし、こんな状態で誰かと遊んだとしてもとても楽しめる状態でない事は明らかだった。
自分がパネルを眺めている間、スタッフも店長も、誰も喋らない無言の時間が流れる。
数十秒にも思える時間が流れた後、振り絞るように声を出した。
「・・・今日は、もういいです。」
南武線のレジェンド
12月末とはいえ、日が当たりすっかり暖かくなった川崎の街を歩く。
風に当たって少しだけめまいがおさまった。
真っ暗だった朝の四時半。
ネオフラミンゴの店頭に立ったあの瞬間が遠い昔のことのように思える。
木村さんと遊べると信じて疑わなかったこの7時間。
何も考えることが出来ずに、体が動くに任せてそのまま川崎駅へ。
乗り込んだ南武線車内の座席に座ると、急に緊張の糸が切れたのかどうしても誰かに話を聞いてもらいたくなった。
でも、こんな話を聞いてくれる友人がリアルでいるわけもない。
この日、初めてネオフラミンゴの掲示板に書き込みをした。
#730 2021/12/23 12:11
朝の4:30から並んで一番ゲットしたのに、、、
まさか木村さんが招待客で売り切れだったなんて、、、
あまりのショックでめまいがしてそのまま店を出てきてしまった。
「南武線のレジェンド」と呼ばれた日
終わり